第1章 リバーデールの四季(2006.7.10記事)
リバーデールは、ハドソン河に沿った小高い丘の上にある小さな町です。
夏には-川面をすべって南から心地よい風がふいてきます。
冬には-北から対岸までうめつくすほどの氷が流れて来るのを眺めることができます。
もう15年もここに住んでいるのですよ。
新聞で見つけた不動屋さんの紹介で、初めてこの町に来て、(周りにたくさんの雑木林がある)ことが気に入って住むことに決めたのです。
春になれば-赤いベレー帽子に黒のモーニングを着たキツツキがやって来て、雑木林の木のピアノを叩きJazzを演奏します。
そうすると、樹木はいっせいに目を覚まし、野も山も雑木林も黄緑色の新芽でおおわれます。
秋になれば-オールバックの髪にサングラスかけ真っ赤なジャケットを羽織ったカーディナルがバケーションから帰ってきて、自慢気に口笛を吹き飛びまわります。
朝早く起きて散歩をすれば-白と黒のストライブの入ったバロック風のドレスを纏った仮面舞踏会帰りのスカンクに出会います。
夕暮れ時になると-横縞の囚人服みたいな作業服を着たラクーン(あらい熊)が5、6人でやって来て、ごみ箱の清掃を始めます。
しかし、彼らは仕事前から酔っ払っていて、中途で投げ出して帰ってしまうのです。
アトリエの窓から見える中庭には、7階建てのこのアパート以上の背高いノッポのメープルの樹とサーカスのテントのような樫の樹が立っています。そのメープルの樹の祠に仲の良い働き者のリスの夫婦が、住んでいます。
玄関横の管理人室の窓辺には、灰色の少し太った猫がいつも昼寝をしています。目があって、「Hi!」と声をかければ、愛想よく、「ミャ-!」と返事をします。
溶け込むようにこの町に住んでいたら、いろんな野生の動物たちと顔見知りになりました。
しかし、手を取り合ったり、抱き合って喜んだり、食事に招いたり招かれたりする関係ではありません。疎外とか無視するとかいうものでなく、プライベートを尊重して無闇に立ち入らないという共存距離を保っているのです。
だから、突然出会ってもお互い慌てふためくことはありません。
町の住人達も穏やかで、道ですれ違えばお互いに明るく挨拶を交わしますし、散歩の犬同士が牙を剥き出していがみ合うこともありません。
ボクにとってこの町が居心地良いのは、野良猫が自分のテリトリーを自信をもって彷徨するようなものなのです。
だから、ときどき友達に手紙を書くのです。
「四季折々、美しいところですよ。一度遊びに来ませんか?」って。
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