第2章 ワラジをはいた猫ー2/2 (2006.7.18記事)
理由を聞けばーそれがいかにくだらなくとも白旗揚げて降参したも同然で受け入れなければならない。
「しまった!」と思ったときはておくれで、人生の大半はこの(お人よし)で後悔しているのである。
彼女はいま妊娠7ヶ月で、まもなく女の子が生まれてくるのであるが、その準備におおわらわであることを楽しそうに長々と語る。
理由は、忙しいことにあるのかと思ったら、猫の体臭か体液か何かがプラス反応に出たとかで、胎児によくないそうである。
ため息もつく間も与えず、善はいそげとばかり、
『明日、おとどけににあがります。』
と電話がきれた。
(猫と住む? どうすりゃいい?)
と思案をめぐらしていたら、幼い頃の記憶が蘇ってきて、日本の姉に電話かけて見る気になった。
『幼い頃、家に猫がいたよね。』
『へー、よく覚えていたね。あれは、あなたが幼稚園にいってたころよ。』
『どんな猫だった?』
『知らないわよ。ペットじゃないもの。ネズミ番、ネズミ捕りよ。突然なによ。猫
でも飼うつもり。それよか、恋人はできないの?』
やぶ蛇だったと後悔しつつ、ウイスキーの水割りを飲みながら友人に電話をかけた。
『猫?飼うのか?似たもの同士憐れみの令だよ。君には似合わないし-考えてもみろ、相性が合うわけないだろう。飼うなら犬にしろ。早起きして一緒に散歩したほうが健康的で三文の徳というもんだ。』
『相性とか健康のためとか三文の損得じゃないんだよ。義理と人情の渡世のからみなんだ。』
『猫の三度笠なんてきいたことないね。なるほど、君がねえ。言うこときかないよ。 B型的性格で生意気で横着だからなあ。まあ、一言で言えばやくざだ。』
『オイ、オイ。だれのこと言ってるんだ。?』
『俺んとこの猫。いつも悪戯してるよ。頭コツンとなぐると、(オボエテロ)とピーっと逃げるが、こちらが忘れたころを見計らって噛み付いたり引っ掻いたりして必ず仕返しするからな。恨みは絶対忘れないぞ。化けて出るっていうだろう寝首かかれるな。』
予備知識を仕入れようと思ったら、まるで恐喝にあってようなもんだ。
猫がここでどういう生活をするのか知らないが、ここにはネズミもいないし、ボクには猫の性格も哲学も倫理観も猫語も解らない。
ただ、義理と人情がからんだ縁で、ワラジを脱ぐのだから縄張り争い鉄火場荒らしなどなく、共存生活をしたいものだと切に切に望むのである。
(第2章ー完)
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